着物を着る時のマストアイテム・長襦袢。けれども、和装になじみがないと「聞いたことはあるけどよくわからない」「聞いたことがない」という方も多いはず。
そこで今回は、外からはほとんど見えないけれど実は重要な長襦袢の役割や種類、お手入れ方法などをまとめました!
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長襦袢の役割とは?

長襦袢の役割としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 裾捌きをよくするため
- 着物裏の汚れ防止のため
- 保温のため
- 着姿を美しく見せるため
着物の下に長襦袢を一枚着ることで、裾捌きがよくなったり着物を汗などの汚れから守ったりすることができます。また、着物と同じく長襦袢も季節によって仕立てを変えるので、体温調節の役割も。
さらに、長襦袢の着方で着姿の美しさや着崩れのしにくさが決まるので、着付けの土台を担う重要なアイテムといっても過言ではありません。
また、長襦袢は下着ではあるものの袖や裾からチラリと見えるようになっており、ある程度見せることを前提としたデザインになっている点も特徴。コーディネートにアクセントを添えてくれるので、長襦袢は実用性はもちろんファッション性も兼ね備えた、ハイブリッドな下着といえます。
長襦袢の歴史
元来、着物の下に着用する下着は、長襦袢ではなく半襦袢が主流でした。下半身には、男性はふんどしを、女性は湯文字(ゆもじ)や二布(ふたの)などと呼ばれる木綿製の腰巻をつけるのが一般的だったようです。

長襦袢はもともと遊郭の遊女が部屋着として着たものが最初と言われています。その華やかで色気漂う衣服は次第に市井の間にも広まり、江戸時代中期には小紋や中型、絞りなどの装飾を施したものが出現。
さらに、奢侈禁止令によって贅沢な装いを禁じられたことで、人々は長襦袢をはじめとする見えない部分のオシャレによりこだわるようになり、地味な着物の下から華やかな長襦袢がチラリとこぼれる粋な装いを、創意工夫をこらしながら楽しんでいたようです。
この傾向は明治時代以降も続き、大正~昭和初期にかけて長襦袢のオシャレは最盛期を迎えます。
#長襦袢 という観点から絵画作品を見ると、各画家の個性があきらかに。竹久夢二描く長襦袢は、女性のプライベートタイムの密やかさを表すため。一方高畠華宵は着物ファッションをより華麗に彩るため、振りや裾からこぼれる長襦袢の色柄を描きました。長襦袢という新たな視点による鑑賞法、おすすめです pic.twitter.com/3x2rhehXoL
— 弥生美術館・竹久夢二美術館 (@yayoi_yumeji) August 30, 2019
しかし、戦後以降は洋装化が進むとともに着物は礼装としての役割が強くなり、白がシーン問わず定番に。2000年以降になってようやくアンティーク着物ブームの影響などもあって、再び色柄の長襦袢が注目されるようになってきています。
長襦袢と肌襦袢との違いとは?
肌襦袢とは、長襦袢の下に着る肌着のこと。袖や丈が短く作られており、長襦袢とは違って着物を着ると外からは見えません。
肌に直接触れるため、肌触りがよく汗を吸収しやすい綿素材のものが一般的。主に正絹でできている長襦袢や着物とは違い、自宅の洗濯機で手軽にお手入れすることができます。
長襦袢と二部式襦袢、半襦袢の違いとは?
着物の下には長襦袢を着用するのが基本ですが、二部式襦袢や(筒袖)半襦袢で代用することもできます。あわせる着物や着て行くシーンにあわせて上手く使い分けてみましょう!
長襦袢 | 二部式襦袢 | 筒袖半襦袢 | |
メリット | ・対丈*で仕立てるため腰回りがゴワつかずスッキリ見える ・着物にあったサイズで仕立てられる | ・上下に分かれているので、身長に関係なく着ることができる ・下半身の動きが上半身に響きにくい | ・身長に関係なく着られる ・筒袖なので、着物の裄や袖丈が気にならない |
デメリット | ・誂える場合は値段が高い | ・既製品のため、着物の裄や袖丈とサイズが合わないことがある ・腰回りがゴワつきやすい | ・下半身にはステテコや裾除けが必要 ・着用シーンが限られる |
素材 | 正絹、化繊、麻など | 化繊、木綿など | 木綿や麻など |
使えるシーン | フォーマル~カジュアル | (フォーマル)~カジュアル | カジュアル |
購入方法 | お誂え / 既製品 | 既製品 | 既製品 |
二部式襦袢
二部式襦袢は、長襦袢よりやや簡易的な襦袢。通常の長襦袢は着物と同じような形をしており、おはしょりは作らず対丈(ついたけ)で着用しますが、二部式襦袢は上下が分かれているのが特長です。
半衿つき半襦袢と裾除けがセットになったもので、袖の部分と裾除けが同じ柄になっているのが一般的。素材は綿やポリエステルがほとんどなので、正絹の長襦袢に比べるとお手入れしやすく、値段も手ごろです。
二部式襦袢は基本的にカジュアル向けですが、色が白で、半衿・袖・裾よけの仕様によっては、フォーマルで着用できるものも見られます。
筒袖半襦袢
筒袖の半襦袢は、もっとも簡略化されたカジュアル向けの襦袢。袖はだいたいレースの筒袖になっているので、あわせる着物の袖丈や裄の長さを選ばず着用することができます。素材は綿100%のものが多く、着付けとお手入れがしやすいところもメリット。
その名の通り上半分だけの襦袢なので、下半身には裾除けやペチコート、ステテコなどをあわせます。
二部式襦袢と同様、基本的に半衿が付いているので、わざわざ縫い付ける必要もなし。半衿を変えたいときは、半襦袢についている衿の上から別の半衿をかぶせる形で縫いつけます。

長襦袢の素材
長襦袢の素材は、定番の正絹のほか、ポリエステルなどの化繊や、夏向けの竹、麻なども見られます。それぞれの特長をまとめたので、季節やシーン、好みにあわせて選んでみてください。
素材 | 特徴 |
絹 | ・吸湿性、放湿性、保温性に優れ、季節問わず快適な着心地 ・肌触りがよい ・光沢感があり上品な印象に ・自宅での洗濯不可 |
化繊 | ・自宅で洗濯でき、シワにもなりにくいのでお手入れが楽 ・値段が手ごろ ・放湿性や放熱性に欠けるため、暑い時季は蒸れやすい ・静電気が起こりやすい |
竹 | ・柔らかいタッチで涼しいため主に夏に用いられる ・抗菌性がありニオイやカビに強い ・自宅で洗濯可 |
麻 | ・程よいハリがあって着付けしやすい ・通気性が高いため主に暑い時季に活躍 ・シワになりやすい ・自宅で洗濯できるが、毛羽立ったり縮んだりすることがある |
モスリン | ・羊毛などの毛から作られているため保温性が高い ・オシャレなデザインのものが多い ・虫に食われやすい ・裾捌きがよくない場合がある |
【着物別】長襦袢の色柄の選び方
長襦袢にはさまざまな色柄のものがありますが、あわせる着物によって選ぶ長襦袢も変わります。着物別に長襦袢の色柄の選び方をご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
留袖にあわせる長襦袢

黒留袖や色留袖には、白の襦袢をあわせるのがマナー。金糸銀糸の縫い取り模様が入ったものや、縁起の良い七宝や亀甲、松竹梅などの文様が入ったものを選び、さり気なく華やかさを演出してみましょう。
振袖にあわせる長襦袢

礼装の長襦袢は白が基本ですが、振袖には特にルールはありません。他の着物より袖が長いので、振袖用の長襦袢を選ぶ必要はありますが、色柄に関しては振袖の雰囲気にあわせて自由に選んでOKです。
無地感の白やピンクが定番ですが、赤や紫、緑などのカラフルな地色に、花柄やドット柄など大胆な模様が入った個性的なデザインのものも多く見られます。
喪服にあわせる長襦袢

喪服には、必ず白の長襦袢をあわせます。ただし、留袖とは異なり、おめでたい雰囲気のものはNG。生地に金糸や銀糸を使っているものは避け、地紋も吉祥文様ではなく、菊や流水、紗綾形、雲などが入った慶弔両用のものを選ぶようにしましょう。
訪問着・付下げにあわせる長襦袢

訪問着や付下げといった準礼装の着物には、淡い色やぼかしの入った長襦袢がおすすめ。同系色など、着物の色柄になじむような控えめなものをあわせれば、上品で洗練された印象を演出できます。
小紋・紬にあわせる長襦袢

小紋や紬といったカジュアル向けの着物にあわせる長襦袢は、なんでもOK!定番の白のほか、多種多様な色柄があるので、コーディネートのバランスを考えつつセレクトしてみましょう。
【季節別】長襦袢の仕立ての種類
長襦袢は、季節によって仕立て方が変わります。体温調節の役割もあるので、袷の時期・単衣の時期・夏着物の時期で、長襦袢も衣替えするのが一般的です。
袷の時期 | 袖と身頃、どちらにも裏地がついた袷仕立ての長襦袢、もしくは袖だけ二重になっている無双の長襦袢 |
単衣の時期 | 袖にも身頃にも裏地がついていない単衣仕立ての長襦袢 |
夏着物の時期 | 絽や紗、麻など透け感のある長襦袢 |
ただし、最近は気温が高い日が増えているため、必ずしもカレンダー通りに衣替えするとは限りません。
着用する着物に迷う場合は長襦袢で体温調整するのも方法のひとつで、通常より気温が高い日は袷の着物の下に単衣の長襦袢を着たり、単衣の着物の下に夏向けの長襦袢を着たりすることも。むしろ寒い時期はアウターなどで調整できるので、年中単衣仕立てを着用する方も多くいらっしゃいます。
礼装の場合はカレンダーに則った方が無難ですが、普段着であれば無理なく快適に過ごせるよう、長襦袢を上手く使い分けて調節してみましょう。
長襦袢の購入方法
長襦袢を購入する方法は主に2つ。反物から仕立てるか、もしくは既製品を購入するかのどちらかが一般的です。また、定番ではありませんが、アンティークの長襦袢を購入するという方法もあります。
それぞれどのような違いがあるのか、詳しく解説していきます。
反物から仕立てる

もっとも王道なのが、反物から仕立てる方法。長襦袢は着物とは異なり、自分のサイズではなく着用する着物のサイズにあわせて仕立てるのが一般的です。
着物にピッタリあったサイズに仕立てられる上、居敷当てや衣紋抜きの有無など、オプションも好みにあわせて選べる点がメリット。ただし、その分金額も高額になりやすく、反物代とは別に仕立て代が約2万円程度かかるため、最低でも5万円程度は見ておいた方がよいでしょう。
既製品を購入する

既製品はすでに仕立て済みなので、購入後すぐに着用できるところがメリット。仕立て代もかからないので、価格も安いものであれば5,000円以下で購入することができます。また、汗をかいたり汚したりしても自宅の洗濯機で洗えるので、お手入れしやすいのも嬉しいポイントです。
ただし、S・M・Lなどサイズ展開になっているため、必ずしも手持ちの着物のサイズとあうとは限らない点は注意が必要です。
ちなみに、既製品で購入できるのは、主に化繊や木綿、麻素材のもので、正絹はお仕立てのみです。
アンティークの長襦袢を購入する
アンティークの長襦袢を購入する方法もあります。主に戦前に生産されたアンティークの長襦袢は、現在では見られない華やかな色柄が魅力。生地の質感も違うので、現代物とは一味違った装いを楽しむことができます。
一方で、自分の着物のサイズに限らない上、年季の入った中古品なので汚れなどのダメージがあったり、生地が弱って破れやすくなっていたりするものがほとんど。事前に状態を確認した上で購入するようにしましょう。

長襦袢のサイズの選び方

長襦袢のサイズは、着物の寸法から割り出すのが一般的。その際、特にチェックしておきたいのが、裄・袖丈・身丈の3つです。
裄
裄は、肩幅と袖幅に分けられます。肩幅は着物と同じサイズで、袖幅は着物より2分(0.75cm)ほど短めに仕立てるのが基本です。
肩幅や袖幅があっていないと、着物の袖口や振りから襦袢が見えてしまうことがあります。もし裄が長すぎる長襦袢を持っている場合は、肩幅を少しつまんで安全ピンで留める形で調整してみてください。
袖丈
袖丈は、着物と同じ寸法、もしくは裄と同様2分(0.75cm)ほど短めに仕立てます。
多少長い分には、着物の袖の内側に収まるので問題ありませんが、短すぎると、裄があっていたとしても着物の振りから長襦袢が出やすくなるので要注意。万が一着物の袖からはみ出してしまった場合は、袖が出て来ない位置にあわせて安全ピンで留めておくとよいでしょう。
身丈
長襦袢はおはしょりを作らず、対丈で着用するので、身長にあっているかどうかもポイント。長さはだいたい身長×0.8cm、くるぶしが隠れるくらいが目安です。袷や単衣の着物であれば多少短くても気になりませんが、透け感のある夏着物などは素足がくっきり見えて不格好になってしまうため、注意しましょう。
長襦袢のお手入れ方法
着用した後の長襦袢のお手入れは、素材によって異なります。今回は正絹と、それ以外(化繊・木綿)に分けてご紹介します。
正絹の長襦袢
正絹の長襦袢の場合、基本的に自宅での洗濯は不可。絹は非常にデリケートな素材で扱いが難しいため、誤った方法で洗ってしまうと縮みやシミの原因になります。
着物上級者の方であれば自宅で手洗いされる方もいらっしゃいますが、初心者の方は専門のクリーニング店に依頼した方が安心です。
着るたびに洗う必要はありませんが、何度か着用した後や汗・汚れが気になるとき、シーズンが終わってしばらく着ないときなどに出しておくと安心です。
化繊・木綿・麻の長襦袢
正絹以外の素材の長襦袢は、自宅で洗えるものがほとんど。オシャレ着用の中性洗剤を使って、洗濯機のドライコースや手洗いで洗います。ただし、素材によってお手入れ方法が異なる場合があるので、あらかじめ洗濯表示を確認しておくようにしましょう。
洗ったら、シワにならないように生地を伸ばし、着物用ハンガーにかけて干します。直射日光に当ててしまうとヤケや色あせの原因になるため、必ず陰干しを。
ちなみに、麻素材はシワになりやすいため、脱水せずに干すのがおすすめ。水分の重みでシワが伸び、キレイな状態で乾かすことができます。

和洋ミックスコーデなら長襦袢なしでもOK!

「長襦袢を着るのが面倒…」という方は、和洋ミックスコーデにして長襦袢なしで着付けるのもおすすめ。
カジュアルシーンに限られますが、着物の下にハイネックやパーカー、シャツなどをあわせれば、長襦袢を着る手間を省きつつ、着付け時間の短縮にもつながります。

着物や帯だけでなく、長襦袢選びも着姿や着心地に影響する大事なポイント。着物をより快適に楽しむためにも、ぜひ今回の記事も参考に長襦袢を上手く活用してみてくださいね!
【参考】
・『着物イロハ事典』成美堂出版
・『長襦袢の魅力』河出書房新社
・『江戸のきものと衣生活』小学館